第5章 外に出たらそこは
クルーザーを降りて
智さんと向き合う。
「…じゃあ」
「…はい」
「連絡は?」
「え?」
「彼氏」
そんなの、あるはずがない。
そう思いながらも
携帯電話を鞄から取り出してみると
着信履歴が2件。
「………うそ」
そこには彼の名前。
少しだけ、ギュッと胸が痛くなって
唇を噛み締めた。
「…良かったね」
「………」
良かった?
この連絡は良かったのだろうか。
携帯を握りしめて
何かわからない気持ちを飲み込んで。
震えたのは私の手、ではなく
突然の着信で動いた手の中のそれ。
画面には彼の名前。
智さんを見ると、
最初に会った時に見せてくれた優しい笑顔。
「まだ好きならうまくやりなよ」
と、それだけ言って。
私に背を向けた、
最後まで掴めなかった男の人。