【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第2章 黒い転校生
それは少年だった。背はすらりと高く、このクラスの生徒である轟焦凍とほぼ同じくらいだろうか。濡れたような黒髪の下から、ふたつの鮮やかな赤い瞳がのぞく。ひどく整った顔立ちにその血のような色は異様に映えて、出久はその目と視線が合った瞬間、本能的に目をそらしてしまった。
転校生の登場に教室の騒がしさは頂点に達した。「やっばい、超イケメンじゃん!!」「何だよ男かよ~チェンジ!!」喜びと落胆と様々な声が入り交じるただ中に放り出され、前に立った転校生は少々居心地が悪そうだ。
「初めまして、一ノ瀬翔と言います」
教室が静けさを取り戻すのを待って自己紹介を始めた少年の声は、りんと鈴が鳴るかのように美しく澄んでいて、出久の心臓は思わずどきりと跳ね上がった。まだ未成年とは言え、ほとんどが声変わりをしている男子高校生にあって、その声は少し浮いてしまうくらいに甲高く、優しく、柔らかい調子を含んでいた。
まるでそう、女性のように。
(な、何を思ってるんだ僕は……!? 男の子の声を女の子みたいだなんて、失礼すぎるだろ!)
出久はぼさぼさ頭を左右に振り乱してたった今浮かんだ思考を打ち消した。何やってんだ緑谷、と転校生が男だと分かって早くも興味を失った後ろの席の峰田実が白い目を向けてくる。
「この度編入試験を受けて、雄英で学ばせてもらうことになりました。皆より遅いスタートで、色々迷惑をかけると思うけど、精一杯がんばります。よろしくお願いします」
一ノ瀬翔と名乗ったその少年はそう言うと、ぺこりと小さく頭を下げた。もう一度よく耳を澄ませて聞いてみたけれど、その声はやはり自分たちと同年代の少年といった感じで、しっかりと声変わりもしており、少女のようにも中性的にも聞こえない。先ほどの声は聞き間違いだったのだろうかと、出久は首をひねった。
「一ノ瀬の個性は翼と伸びる爪だ。伸縮、出し入れ自在で今は引っ込めてるけどな。また、編入試験で優秀な成績を収め、奨学金を受けることになった特待生でもある。遅れをとるのはお前らの方かも知れんということだ。これを機により一層励むように」