第1章 Prologue
しん、と静まる白い世界。見渡す限り真っ白という形容がピタリとはまる白銀の雪景色の向こうから、輝かしい朝陽が昇る。光が空気中の細粒に反射してキラキラと輝く様は幻想的で、気温のことなど忘れてしまいたくなる。
くしゅっ
しかしながら身体は正直なもので、小さなくしゃみと同時に感じた気温の低さにふるりと震える。気休めにでもなればと、はぁ、と両手に息を吹きかけると、見事に白く広がり、そしてそのまま風に流された。口の前に残る両手のひらは心なしか暖かい気がする。
足元に積もる、自身の足跡以外に乱された形跡がない真新しい雪と、氷点下の気温に、ここは雪国で、季節はもう真冬なのだと、改めて実感させられた。
北海道出身者といえど、この気温の低さにはいつまで経っても慣れないものだ、と思いながらも彼、吹雪士郎は未だそこから動く気配はない。
白銀の世界に1人佇む彼の姿は、ひどく幻想的で、しかし儚さも相まって、さしずめ一枚の絵画のようにも映る。
すっ、と肌を刺す冷たい風が吹き抜け、彼のマフラーをひらりと靡かせた。それと同時に、きし、と彼の背後で積雪を踏みしめる音がした。
「吹雪くん」
そっとかけられた、ふわりと響いた優しい声に、彼はゆっくりと振り返り、そして……。