第143章 旅立つ
12月21日
タクシーの車窓から流れる街はまだ薄暗く朝の気配が迫っている
これから動き出す世界
私はワクワクと胸を弾ませて窓の外を眺めていた
彼との旅行は此れで何度目だろうか
車中泊や遠出を含めれば数え切れない程沢山の思い出を作った
今回の旅行も彼との素敵な思い出に成るのだ
暖房で暖かい車内から窓の外を眺めればすっかり葉の無くなった木が寒そうに揺れていてぎゅっと胸が痛くなる
彼はもうすぐ帰ってしまう
そんな事は解り切っていて、言うまでも無く今回が最後の旅行に成るだろう
しかし、だからこそ私は目一杯楽しもうと決めた
彼が隣に存在する今この時、別れに怯えるよりも彼が隣に居る幸せを噛みしめたかった
「珍しい髪型だね」
小さな音でラジオが流れる車内で彼はポツリと呟いた
物思いに耽っていた私だが即座に反応する
「!はい!今日はストレートにしてみました!」
彼と最後の旅行
私が張り切らない筈も無く、普段の癖毛セットからイメージチェンジをして長時間コテで格闘し、ストレートヘアーにセットしたのだ
彼は私のあらゆる変化を敏感に感じ取ってくれる様に思う
普段と違うメイクをした時、普段より張り切ってお洒落をした時
彼は必ず言葉に出して変化を指摘してくれる
女性としては喜ばしい事なのだが変化に気付いてくれるという事は裏を返すと通常の男性が気付かない変化でも気付き、似合わない。と思われる可能性もあるのだ
まだ深夜とも取れる時間から起床してバッチリメイクを施し、癖毛と格闘したが似合わないと思われてしまえば全ては水の泡……