第2章 風のざわめき
~ ケイタside ~
タダシ達が海に飛び降りたあと、上がる息を堪えながら柱に凭れた。
下にはオレ達の船がある。
ニシノヤもコガネも、オータも待機してる。
心配することは、なんもねぇ。
無事にタダシとツムグを海から引き上げるだろ。
岩「アンタ···逃げないのか?」
同じように柱に凭れたヤツがオレに声をかけてくる。
「オレは、いいんだよ。こんな状態じゃ、どうにもならねぇからな···どっかの誰かさんが、一発···風穴作ってくれた、からよ」
今もジクジクと吹き出すものを押さえ、笑って見せる。
「それにお前こそ、逃げねぇのかよ」
岩「俺も、いいんだよ···コイツをひとりで逝かせるワケには、な」
足元に転がる男を顎で差し、笑う。
「そいつ、まだ息あるだろ。いいのか?お前はそれで」
岩「あぁ···いいんだ。俺達は昔から、いつだって一緒に生きてきたからな···終わりこそ、一緒にいなきゃ···ダメだろうよ」
「ハッ···美しい友情ってか?ご立派だな」
こんな時、オータなら間違いなく鉄拳食らわせるだろうが···オレにはもう、そんな勢いも出ねぇよ。
桜「ケイタ!!そこにいるんだろ?!···飛び込め!」
岩「アンタ、呼ばれてんぞ」
「みてぇだな」
軋む体に無理やり奮い立たせ、何度もオレの名前を呼ぶヤツらに姿を見せてやる。
桜「ケイタ!そっちの船は沈む!早く!!」
あぁ、知ってるよ。
だが···悪ィがオレはもう、そこに降りる程の元気はねぇんだよ。
だからせめて···最後に笑ってやる、か。
グラリとセイジョーの船が傾き、足元が振らつくのを耐えながらゆっくりと剣を空高く翳してやる。
桜「なにやってるんだケイタ!···ケイタ?!」
双子は命を分かちながら育つから短命だと言われ、母さんを泣かせてきた。
だったら、オレの残りの命は···オータ、お前にくれてやる。
アイツらの為にも、アズサの為にも···生まれてくる子供の為にも···
最後の力を振り絞り、鉄の味がする空気を吸い込み···叫んだ。
「オータ!!お前は···お前は···生きろよ!」
桜「ケイタ!!!」
これで···いいだろ?
いいよな···神さんよ···
後はアンタの好きにしてくれ。
オレはもう、充分だ。
生きる覚悟をしろよ?···オータ···