第1章 少女の悩み[浮竹十四郎]
今隣で静かな寝息を立て、気持ちよさそうに眠る少女を見つめ思う。いっそのこと、こうしたことになる前に婚姻でもしてしまっていたら状況は変わっていたのだろうか、と。
…否、総隊長からの命なのだから、その時点で雪音には断わりにくかったであろう。本当の祖父のように慕っているからこそ、余計に。
「はぁ…俺としてはすぐにでも連れて帰りたいよ…」
十三番隊に入れて、目の届く所にいて欲しい。
しかし、それだと気になって仕事にならないだろうと指摘されて妥協したのが京楽が隊長を務めている八番隊だった。
そんなことを思い出していると、隣の少女がふいにもぞりと動いた。
「ん……あ、れ…?」
「目が覚めたかい?お姫様」
突然聞こえた思いもしない人物の声に、雪音はバッと顔を勢いよくあげた。
「え!?な、なな、なんで十四郎が…!?」
「なんでと言われても…君に会いに来るのに理由が必要かい?」
苦笑しながら言う浮竹に雪音は顔を真っ赤にさせてはしたないところを…!と俯いた。
「いいんだよ、疲れていたんだろう?書類仕事ばっかりじゃ疲労も溜まりやすいだろう」
「十四郎…」
「時間があいたら雨乾堂においで。たまには2人でゆっくり過ごそう」
「はい…!」
「あ、そうそう。雪音に渡したいものがあったんだ」
そういうと何処からか浮竹が取り出したもの。それは…
「白羽織…?」
隊長格が羽織る白羽織のような真っ白な羽織。デザインもどことなく似ているが、細部をよく見ると少し違っていた。
「それは白羽織に限りなく似たデザインで作ってもらった白羽織だ。さすがに俺のをあげる訳にはいかないから、総隊長にも許可をとって限りなく似たデザインにしたんだ」
「どうして…」
「お守り…かな」