第8章 朧月
携帯だけを握りしめて、とにかく走った。
皐月が泣いていた。
理由なんて、最悪な事に月島しか思い浮かばない。
やっぱり、昼間に殴っておけばよかった。
途中でもう一度電話を入れて、詳しい場所を聞く。
学校の近くで一人暮らししてるのは知っていたが、
今までは詳しい場所は知りたくても、聞けなかった。
インターホンを押すと、見慣れた制服姿の皐月が姿を見せた。
「突然来て、悪い。」
こんな時間まで制服のまま…何してたんだ?
一瞬だけ思ったが、考えるのをやめた。
何って…。
嫌でも月島の影がチラつく。
「本当に悪いって思ってる?えっと…とりあえず、上がる?」
可笑しそうに言う皐月。
どうやら、突然来た事を怒ってはいないようだ。
ん…?
チラッと見えた皐月の手首に違和感を覚えて、
思わず掴む。
これ…。
「おい、これ…月島にやられたのか?」
「あっ…」
手首に一筋、真っ赤な跡が残っている。
周りは少し擦り切れている所もある。
真っ赤になる皐月の様子に、
先程考えていた、何をしてたか…の最悪な答えが頭をよぎる。
「……。無理矢理…されたのか?」
想像したくない場面を思い浮かべてしまう。
皐月が泣いてた理由も…考えるまでもない。
やっぱり殴り殺しておけばよかった。
「違うの。」
皐月がこちらを見つめ返す。
そんなにハッキリと否定するなよ。。。
一瞬でも、月島に無理矢理されたのだと、助けて欲しいと泣きついてくる皐月を想像していた俺としては、肩透かしもいい所だ。
そんなに跡つけて…違うわけないだろ。
月島にいいように丸め込まれてるだけだろ。
何が…違うんだよ。
「私が…。私が…知りたかったの。影山くんもさっき言ってたでしょ?本当に蛍じゃないとダメなのかって。私も…その答えを知りたかったの。」
本当…何にもわかってねぇ。
やっぱり月島に丸め込まれてるだけだって気付いてもねぇ。
俺が言いたかった事も伝わってねぇ。
「…。今までずっと悩んでわかんなかったもんが、同じ方法でわかるか!試すなら…別の方法だろ。」
なんで、自分の事傷付けてまで、月島を庇うんだよ。
俺なら、絶対にそんな真似はさせないのに。
「月島を忘れられるか試すなら、俺で試せよ。」