第13章 弄月
蛍が出て行った後、静まり返る医務室に携帯のバイブ音が響いた。
[影山 飛雄]
慌てて涙を拭うが、着信が途切れてしまう方が先だった。
そもそも、どんな顔して会えばいいんだろう。
着信が切れてしまうと、ディスプレイには履歴が映し出された。
[着信 5件、メッセージ8件]
全部、飛雄だろうか?
いや、何も言わずに急に消えたのだから、潔子先輩達にもご迷惑を掛けてるかもしれない。
中身まで確認する気になれず、とにかくベッドから這い出す。
「先に言っとくけど…」
ベッドの横の窓の外から、あまり聞きなれない声が聞こえてくる。
誰だろう…。
窓に近付き、カーテンを少しだけめくって、外の様子を伺う。
「別にわざと覗いてたわけじゃないからな。医務室はこの時間人いないって言ってるのに、聞かずに体育館飛び出していったから、わざわざ親切に追い掛けてきたってわけ。」
音駒の黒尾さんと…蛍。
こちらには背中を向けているが、私が蛍を見間違うはず無かった。
「まぁ…別に言わなくても自分でわかってるだろうけど…あれはマズいだろ。」
話の流れ的に、先程の事を見られていたんだろう。
あれを…人に…。
恥ずかしいより先に、マズいと思った。
この話が飛雄の耳に入ったら…。
そんな事を一番に心配してる自分が嫌になる。
「まぁ、反省してる奴にこれ以上説教しても仕方ないだろうけどさ…。なんでそんな事になっちゃってんの?皐月さんがセッター君と付き合ったり、ツッキーが無理矢理襲ったり…。」
なんで、そんな事になってるのか…?
私もずっと考えて来たが、答えが出なかった。
もしかしたら、蛍の答えを聞けるかもしれないと思うと、自分の息を飲む音が聞こえるほどの緊張を感じた。
「そんなの…僕が一番知りたいですよ。」
蛍も…わからないの…?
蛍が初めて口を開いたが、私が期待していたような答えはなかった。
それどころか、ずっと蛍に確認したかった答えを、
蛍がわからないと答えたことが、衝撃だった。
「少なくとも前回の合宿の時はラブラブだったじゃん。ツッキーと皐月さん。それこそ、あの木兎がキャンセル待ちに甘んじるくらい…付け入る隙がないって感じだっただろ?」
周りからはそう見えていたんだろうか。
少し嬉しい気持ちになるが、そこに蛍の気持ちが伴わないと虚しいだけだ。