第51章 歌声よおこれ
文化祭当日、朝。
私はソワソワして前髪を何度も触り、ふわっと可愛らしく広がったスカートを何度も触り、ピチピチなお腹部分を何度もさすり、辺りをうろちょろした。
「お、緊張してるねー」
「そっ、そりゃ、しゅるっ!」
「緊張してるねー!」
髪はダンスの邪魔にならないようにとももちゃんにまとめてもらった。編み込み部分がとても可愛い。が、申し訳ないけれどそんなことをいまは気にしてはいられない。
こうしてはいられないと三奈ちゃんにスマホを借り、振り付け動画を見返す。
「あーんど!」
「わ、三奈ちゃん!」
「頑張ってるね!」
「だって、人前でなにかするって、初めてで」
「なははっ!そっかー!」
三奈ちゃんが私の背中に覆いかぶさって、一緒に動画を見る形になった。
「安藤はさ、今日何考えながら踊る?」
「え?」
とりあえず振りをおうことに必死でそんなことまるっきり考えてなかった私は、キョトンとして三奈ちゃんの顔を見る。彼女の横顔は、いつもより真剣に見えた。
「…えっと、失敗しないように、とか……」
「でもさ、それじゃつまんなくない?」
「え…どういう…」
「私はねー、楽しむよ!絶対!」
私は目を丸くして彼女の言葉を待った。楽しむって事を、頭に入れていなかった。
「全力で楽しんだらさ、それがお客さんにも伝わると思うんだよね!」
「わぁ……それ、いいね。」
「でしょ!で、安藤は?」
にししっと笑う三奈ちゃんが可愛くて、憧れて、私も私なりに考えようと思ってゆっくり目を瞑る。
カッコよく踊る三奈ちゃんやほかのメンバー、それからエリちゃんの顔、私を揶揄するインターネットに上がっていた記事とか、色々浮かんだ。
「ちょっと、欲張っていい……?」
「もちろん!」
それから三奈ちゃんの方を向き、感謝が伝わるように願いながら話した。
「私、あんなにダンス下手だったのに、三奈ちゃん、見捨てずに教えてくれてさ、私ならできるって思ってくれてるのかもって、嬉しかったの。だから頑張れた。」
「安藤……。」
「だからね、三奈ちゃんが、みんなが、教えてくれた私のダンスで、凄いな、楽しいなって……思ってもらって、それで、笑顔になってくれたら、嬉しい、な。」
「安藤〜!!」
三奈ちゃんは震える私の背中に、ぎゅっと腕を回してくれた。すごく、嬉しかった。
「絶対がんばろ!」
「うん!」
