第19章 望み叶えタマエ
「あなたの……個性?」
首に置いた指から、こいつの震えが伝わってくる。
「俺の個性さぁ、五指で触れたものを崩壊させちゃう奴なんだよなぁ。俺の痛みを減らしたいんだろ?なぁ?どうすればいいと思う?なぁ!」
わざと明るく、耳元でその言葉を続ける。
顔を離して怯えているであろうその顔を眺める。
目の前のそいつは案の定、震えていて、泣きそうだ。
受け止める覚悟も無いくせにそんなことを言うからそうなる。覚悟という言葉の意味さえ、知らない癖に。
「そ、それが、あなたの痛みですか?」
「あぁそうだね。」
震える声でそう発するとそいつは、何かを決意したかのようにこちらを見上げた。
そして、何を思ったか突然首にあった俺の手を剥がして、胸の前でぎゅっと握った。上手に五指に触れないように。
「……は?」
「こうすれば、ふ、触れることだって、怖くない!」
キッと見上げるその瞳には、まだ涙が浮かんでいた。
「こうすれば、痛みは…少しは、癒せますか?」
優しいその瞳に、
『仲良くしてくれたら、嬉しいな』
影が頭をチラついた。
消えない怪我のように記憶に残る、アノ言葉。
いつ、誰が、そんなこと言ったのか、忘れたけれど。
「……はなせ殺すぞ。」
「…ぁ。ご、ごめんなさ…」
手が震える手から離れていく。
せっかく晴れた心に、また少し雲がかかった。
此奴が晴らすと思っていた雲が、また色を濃くしていった。
「ひよこちゃん!」
後ろから緑谷が走ってきたのを見て俺はパッと後ろを向き、歩みを進めた。
後ろのざわめきは、全く耳に入っては来なかった。
安藤のせいで曇がかかった。
いらいらもあった。ムカついた。
でも、だからこそ、傍におかないといけない気がした。
路地裏に入り、太陽が見えなくなると、俺の欲望が、感情が、願望がドロドロと溢れだした。
信念も見つけた。
彼奴も見つけた。
準備は、できた。