第12章 上司と部下の張り合い
裕Side
今日は何十年ぶりに人に起こされた。
「…裕…朝だよ、起きて。」
その声と共にだしの香りが微かに香る。
俺がうすら、目をあけると「起きた?おはよう。」と言って微笑む由架がいた。
人にこうして起こされるのは幼稚園の時以来な気がした。
昔から俺は、いろんなことに細かく、特に時間にはうるさかった。
そんな俺は自分が寝坊することや、遅刻することを過剰に嫌った。
あの年の時、誰かに言われたわけではなかったが、その行動が[自分に対する期待を裏切る行為であり、自分の信用を亡くす行為]だと、どこか本能で思っていたからだ。
けれど、今日不意に思ってしまった。
[由架に起こされるなら、毎日でもいいと。]
本来なら他人に起こされるのは嫌だった。
でも、彼女に起こされるのはけして、不快ではなかったし、むしろ彼女が朝、一番最初におはようと言う相手が一生自分ならいいのになとも思った。
ここまで人に執着する自分自身に少しひくが、それと同時に執着することにたいして共感もできた。
「ご飯、できてるよ。よかったら食べて。」
そう言われ、俺は目を完全に覚ます。
「由架、おはよう。」
今日、一番に発した言葉。
それに彼女の名前を入れられているだけで、幸せに感じた。
けれど、この幸せはいつかなくなってしまうのではないかという恐怖にも共に襲われた。
いっそ、彼女のことを都合よく、あいつが諦めてくれないかなんて思ったりもしたが、そんなわけにもいかなそうだった。
もし、由架が俺のそばから離れたらどうしよう、そんなことも俺は心のどこかで考え始めていた。