第5章 # 000000
『もしもし、智?
電話してくるなんて珍しいじゃん!』
『……っ、……しん……ご……』
『智…?』
『……もう、……………僕っ…、』
“生きることに疲れた”
僕は慎吾にそう訴えた
『…分かった。 俺達、この腐った世界を抜け出して自由になってやろうじゃん』
二人なら怖くないだろ、って
そう言ってくれたんだ
『もう戻れないんだぞ? やり残した事、無いか?』
やり残した事。
そうだ
数日後に幕張で開かれる小野塚先生の個展
あれは見てみたかった
『弟には、』
たった一人の、血の繋がった弟
…カズにだけはきちんとサヨナラ、言いたい
『準備はしておくよ
従兄弟の兄ちゃんにも、もう一度伝える
だから、』
弟との最後のお別れ
それを果たしたらまた連絡してくれ、と慎吾は言った
僕はカズを連れ出して、二人で個展を見に行った
今日でお別れ
だから、
最後くらい兄貴らしく、って
個展を見た後、カズの好きな中華料理を食べた
もちろん僕の奢りで
その後寄り道をして帰ろう、って海を見に行った
支配的な現実から逃げ出そうとしている事を
伝えよう
伝えなきゃ
そう思ったのに
僕は最後まで、カズにその事を伝える事が出来なかった
逃げたんだ
全ての物から
大切な弟のカズからも、僕は……