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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第7章 掌中之珠


寝巻のままで朝食を取り終え、着替えを済ませてから庭へ出た。

松本の屋敷とは違う、和を基調とした庭を、下駄をからころと鳴らし、雅紀さんと手を繋いで歩く。

生い茂る木々の隙間から差し込む朝の陽ざしが清々しくて、俺は一瞬足を止めて息を大きく吸い込んだ。

「気に入ったかい?」

「はい、とても‥」

頷いた俺の肩を、雅紀さんの腕が引き寄せ、広い胸に包まれる。

「雅紀‥さん‥?」

俺が見上げると、雅紀さんは少しだけ眉を寄せて、切なげに笑った。

「和也とずっとこうしていられたら、どれ程幸せだろうか‥」

顎にかかった手が俺の顔を上向かせ、唇が重ねられる。


俺だって‥
出来ることなら‥許されることなら、このまま雅紀さんの腕に包まれていたい‥。

でも今は‥


「さあ、そろそろ入ろうか?恋人に風邪をひかせるわけにはいかないからね」


本当はもう少しこうしていたい‥


でもそんな願いが叶う筈もなく‥‥


幸せに満ち溢れた時間は、瞬く間に過ぎて行った。




松本の屋敷の少し手前で馬車が止まった。

「次はいつ会えるだろうか‥」

ずっとつないだままの雅紀さんの手が、俺の手を両手で包み込む。

「直に‥。次の休暇に‥」

「待ち遠しいことだな‥」

「きっとあっという間ですよ‥」

俺が言うと、雅紀さんは俺を胸に抱き寄せると、背中に回した腕に力を籠めた。


ああ、俺はなんて馬鹿なんだ‥
心にもない強がりを言ってしまうなんて‥

本当は片時も離れていたくないのに‥


「俺も‥、待ちます‥。だから雅紀さんも‥」

「では約束の印に口付けを‥」


雅紀さんの唇が俺の唇に重なり、二度三度と向きを変えながら、徐々にその距離を開けて行き、


「名残惜しいが、仕方がない‥」


俺の身体を解放すると、御者に合図を送るように扉を軽く叩いた。


「さあ、行きなさい」


馬車の扉が開かれ、俺は風呂敷包みを手に、そこから飛び降り、深々と頭を下げた。


それから暫くの間、俺はその場に立ったまま、恋人を乗せた馬車が見えなくなるまで見送った。



雅紀さん、貴方を心の底からお慕いしています‥


別れ際に言いそびれてしまった言葉を心の中で呟きながら‥
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