愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第7章 掌中之珠
翔side
最後に智に会ってから、幾日過ぎたんだろう‥。
おれは学校から帰っても部屋を出ることなく、天井の一角を見つめてはそんなことを思う毎日だった。
最近の兄さんは夜会に出ることも少なくなって、家に居る時間が増えたから、迂闊に部屋に忍び込むことができなくて。
もし忍び込んだことが兄さんに知れれば、智が酷く折檻されたり、どこか遠くに連れて行かれるかもしれないと思うと、何もできなかった。
それでも鎖を引き摺る音が聞こえると、音がした辺りの壁際に行って、そこに手を当てたら、少しでも智に近づけるんじゃないかって‥そんなことばかり。
「智‥寒くないかな‥。」
微かにした物音‥。
おれは壁際に立つと上を見上げる。
「ごめんね‥会いに行くって言ったのに‥。泣いてない‥?」
返事をしてくれない真っ白な漆喰の壁に向かって話しかける。
身体を震わせて、泣き噦っていた智‥
キャンディの甘さに、幸せそうに微笑んでいた智‥
別れ際に見せた寂しそうな表情(かお)‥
「会いたいよ‥智‥。」
すると宙に向かって呟いたおれの言葉に返事をするみたいに、また物音がする。
「智、聞こえてる‥?おれ、ここにいるんだよ?」
冷たく物言わぬ漆喰の壁に手のひらを当てて、想いだけを伝えようと‥
するとまた呼応するかの様に、鎖を引き摺る音がした。
もしかしたら‥‥
おれはきつく拳を握ると固い壁を、こんこんと2回叩いて耳を澄ます。
だけど今度はしんと静まり返って物音ひとつしなくて。
「やっぱり聞こえないのかな‥。」
それでも諦め切れなかったおれは、もう一度願いを込めて白い壁を拳で叩いた。
すると‥
“こん、こん”
って同じような固い微かな音が聞こえてきた。
‥聞こえた⁈
智にも聞こえた⁈
おれは少しでも天井に近いところをと目一杯背伸びして、また壁を2回叩く。
そうしたら今度は、直ぐに返事が返ってきて‥
「智‥聞こえたんだね‥。必ず会いに行くから‥」
おれは伝わらない声を届けたくて、また漆喰の壁を叩いた。