愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第2章 暗送秋波
智side
幾つかの季節が巡り、開け放った窓から吹き抜ける風に冷たさを感じ始めた頃、僕はある人物に手紙を認(したた)めることにした。
僕がまだ幸せだった頃…
僕がまだ心から笑えてた頃…
僕の傍には、いつだって彼がいた。
僕の支えであり、友であり…
それは今だって変わらない。
今の僕が、ただ一人心を許せる、唯一無二の存在…
それが二宮和也だ。
文机の上に広げた洋紙の便箋に、渡航の際の土産だと言って渡された、万年筆のペン先を走らせる。
手紙の内容は至って簡単だ。
ただ、全ての準備が整ったこと…
ただ、会って話がしたいということ…
それだけを伝えられればいい。
何故なら、僕の計画を誰にも気取られるわけにはいかないから…。
もしもこの手紙が、和也以外の他の誰かの手に渡ってしまったら…
不安が過ぎる度に、ピタリと止まったペン先は、便箋の上に黒いインク染みを作った。
「何をしているんだい? さっきから溜息ばかり吐いて…」
不意に背中から声をかけられ、咄嗟に書きかけの手紙を文机の引き出しに仕舞った。
いつからそこにいた…?
不安に引き攣る顔に、笑顔の仮面を貼り付けて、背中に感じる体温に身を預ける。
すると、僕がそうするのを待っていたかのように、雅紀さんの唇が降りてきて、まるで絹糸のような、黒檀の髪が僕の鼻先を擽り、単衣の襟元から差し込まれた手が、僕の胸の先を掠める。
「いけません・・、こんな明るいうちから・・」
「構わないよ。それに、誰も見てやしないさ・・」
顎を伝って降りた唇に、首筋をきつく吸われると、背中がブルリと震える。
「ああ…、そんなことをされては…」
身体の奥底で燻り始めた熱が抑えられなくなってしまう・・
小さく首を振り、打ち寄せる波の如く湧き上がって来る熱を逃がそうとしたその時、キチキチッと高鳴く鳥の声に、窓の外に視線を向けると、葉を落とした桜の木の枝に止る一羽の小鳥が、そのビードロの様な目をこちらに向けていた。
「鵙(もず)が見ています・・。それに、お仕事なのでしょ?」
胸元を這う手に、そっと手を重ねて制すると、僕はその手の甲に口付けて、
「ここで貴方のお帰りをお待ちしてますから・・」
声を震わせ、涙を溜めた目で男の顔を見上げた。