第5章 優しくて意地悪
少し経つと電車が来たので、私達は電車に乗り込んだ。いつもは二人で座れるか、宗介さんが立って私を座らせたりしてくれるんだけど、今日の車内はほどよく混んでいた。席は全部埋まっていて、つり革に掴まって立っている人がちらほら見えた。
宗介さんは空いているつり革を見つけると、さっさとそこまで行って掴まってしまった。
「ヒカリ、隣空いてんぞ」
そう言って、宗介さんは私に向かって手招きをしている。
「いえ・・・わ、私はここがいいので・・・」
入口付近の手すりに私は掴まった。
「いや、そこだと人の邪魔になるだろ。ここ来いよ」
・・・宗介さんの言うことはもっともだと思う。だけど、私には宗介さんの隣に行けない事情がある。・・・というか、なんで宗介さん、気付いてくれないかなあ。
「い、いえ、あの・・・遠慮します」
「はぁ?!何、言ってんだお前」
そう言いながら、なんと宗介さんはずんずんと私の目の前までやってきた。
「あ、あの、どうぞ・・・宗介さんだけつり革掴まっててください・・・ね?」
「いや、お前も行くぞ。ほら・・・」
・・・なんて言って宗介さんは私に手を差し出してくれた。電車が揺れて危ないから、手を繋いでつり革のところまで連れて行ってくれるということなんだろう。本当に宗介さんは優しい。でも・・・だからこそなんでわからないかなあ!なんて。
「わ、私ここが好きなので・・・」
「は?さっきから意味わかんねえよ。お前、どうした?」
「ど・・・」
「ど?」
「どうしたもこうしたも!!私、つり革に手が届かないんです!!」
宗介さんがぽかんとした顔で私を見つめる。
「いえ、頑張って背伸びすれば届くんですよ?・・・ぎりぎり」
「・・・・・・」
「だ、だいたいここの電車、つり革の位置が高すぎるんですよ・・・宗介さんは背が高いからそんなこと全然感じないでしょうけど・・・」
「・・・・・・」
「危ないんですよね、ホント!子供が乗った時のこと、もっとちゃんと考えて位置を・・・・・・あ、今の発言は、別に私が子供というわけではなく「ぶ!!はははははははっ!!!」
・・・なんてことだろう。私が一生懸命話しているというのに、宗介さんは大笑いを始めてしまった。