【YOI男主】僕のスーパーヒーロー【勇利&ユーリ】
第2章 予感と覚悟と現実と
数えるのも嫌になる程のジャンプのステップアウトに、ユーリは深く息を吐くと動きを止めた。
「ユーリ!無闇矢鱈に跳んだ所で何も身につかんぞ!それよりステップやスピンの確認をせんか!」
「ジャンプはプロの重要な得点源だろうが!」
「それでも今のお前の状態では無理だ!判ったら言うとおりにしろ!」
痛い所を突かれたユーリは歯を食いしばると、日増しにぎこちなくなってきているような自分の手足を再び動かし始めた。
焦ってはいけない。
大きくなった自分の身体に少しずつジャンプやステップなどの動きを合わせていく事が、何よりも重要だ。
振付師のリリアからも「身体の成長を考えて、今季は新たな4回転ジャンプは増やさない」と、予め釘を差されていた。
「貴方の競技人生は、まだまだこれからなのよ。今シーズンは未来の為の準備期間だと思いなさい。決して一時の衝動だけで無茶はしないように。それで取り返しの付かない事になった者達を、私はこれまで何人も見てきました」
かつて勇利と同期だった純も、無茶な練習を繰り返した結果、膝の大怪我に繋がったと本人から聞いた事がある。
一見冷徹なリリアの言葉の裏側には、ユーリにはそうなって欲しくないという、彼女の温かな心遣いも感じられた。
しかし、
(俺がここで燻ってる間にも、あいつらは先へ行ってしまう…)
どうしようもない隔たりだとは頭では判っているが、今のユーリには、それがもどかしくて仕方なかった。
1日でも早く感覚を取り戻さなければ。
「…っ!」
ステップの軸足を変えようとしたユーリは、体重移動が上手くいかずにバランスを崩し、リンクに尻餅をついた。
「ユリオ、大丈夫?」
すると、偶然そこへ通りかかった勇利が手を伸ばしてきた。
自分を気遣うような眼差しを向けてきた勇利を内心嬉しく思うものの、みっともない所を見られた気恥ずかしさからユーリはぷい、と顔を背ける。
「ほらユリオ。冷えちゃうし、そのままだと危ないよ」
「…けっ」
再度促されて、ユーリはそっぽを向いたまま勇利の手を取ると立ち上がった。
「怪我には気を付けてね。絶対無理しちゃだめだよ」と、自分の前から去っていった勇利を目で追っていたユーリだったが、ふと自分を揶揄する囁きに露骨に眉を逆立てた。