【YOI男主】僕のスーパーヒーロー【勇利&ユーリ】
第3章 不安と焦りとパンドラの匣
試合会場のモスクワからピーテルに戻ったユーリは、気分が優れず翌日の練習を休んでしまった。
全て見透かしているようなヤコフから「今日だけは見逃すが、明日はちゃんと来いよ」と釘を差され、深く息を吐きながらベッドでその身を丸める。
だらしなく寝転がったまま、ラックにかかる黒いストールに視線を移したユーリは、無性に純の声が聞きたくなってきた。
オフシーズンでのプロ作りを通じて、自分に様々な事を教えてくれた純。
勇利から「忙しい」とは聞いているが、それでも何も連絡を寄越さないのは少々つれなくないだろうか。
「今、日本は夜だけど、寝るにはまだ早い時間だよな」
そう呟いたユーリは、スマホから純の番号を呼び出すと、思い切って通話ボタンを押した。
暫くの後コール音が響き、数回鳴った所で電話に出る音が聞こえてくる。
『もしもし』
「!?」
ところが、スマホのスピーカーからユーリの耳に届いたのは、知らない男の声だった。
『…もしもし?』
重ねて聞こえてきた日本語の問いかけに、ユーリは必死に頭の中を整理すると、やがてぎこちなく口を開いた。
「…あ、アノ。このナンバー、サユリ…上林純のスマホ、違うカ?」
辿々しいユーリの日本語に、受話器の向こうから『貴方の名前は?』と以前日本語教師から習ったフレーズが出てきたのに気が付くと、ユーリは言葉を続ける。
「えっと…ぼ、僕ハ、ユーリ・プリセツキー、デス。前に純にタクサン、お世話、なりまシタ」
『ああ…純から君の事は良く聞いているよ。俺は藤枝という。かつて純のコーチだった男だ』
未だ慣れない日本語での1人称に内心照れ臭く思うユーリだったが、彼の英語による返事を聞いて、ユーリはその男が純がピーテル滞在中も良く口にしていた人物であるのを思い出した。
「あんたが、サユリが話してた…『ヒゲ』…?」
『お前さんにもソレ言ってんのか。まったく純の野郎…』
英語に切り替えたユーリは、改めて藤枝に尋ねた。
「この番号は、サユリので合ってんだよな?サユリは今、何処にいるんだ?」
『…君には言ってなかったのか。だから面倒臭がらずにスマホ持ってけつったのに…実はな、純は今入院してるんだ」
藤枝の応えに、ユーリは大きく目を見開いた。