第23章 初心編
「それで、……もう体は大丈夫なのか?」
「うん。…手も震えなくなったんだ。
もう平気だよ。」
「そうか。…無理はするなよ、澪。」
「ありがとう。小太郎。」
「小太郎じゃない、桂さん、だ。
ここではあくまで他人として振る舞え。」
「…そうね。桂さん。……ありがとう。」
後日、あるキャバクラにて。
女装に身を包んだ俺は小太…桂さんと
キャバクラのビルの路地裏にいた。
「それにしても、よく2ヶ月の間、
誰にもバレなかったな。」
「ええ…桂さんの手回しのおかげよ。助かったわ。」
「気にするな。……お前の頼みとあらば、
断るわけなかろう。」
ふわりと笑う小太郎に、俺もにこりと微笑んだ。
俺が女装をしてキャバクラに
潜り込んだ理由は1つ。
男嫌いの克服である。
「初日に手を握られただけで嘔吐してたのには
驚いたが……治るものなのだな。」
「……私も…何度も諦めそうになったけど…
頑張って続けて良かったわ。」
男嫌いを治すためには、
男に触れることに慣れるしかない。
そして、アイツを…神威を忘れるしかない。
そう思い、真選組を辞めて休養を取ってから、
身分を偽りキャバクラで働くことにした。
局長は派遣会社がなくなっても
引き続き雇ってやるから来い、と
言ってくれたんだが断った。
今の俺には、真選組の密偵として
十分な仕事が出来ないと思ったからだ。
それに、今回…というより、
神威の件の発端である、
若との行き違いも気になっていた。
少しは柳生家に奉仕せねばと思っていたのだ。
若のため…そして、隠密隊のため。
ゆっくり時間を取ってやりたかった。
「ああ。そうだな。
もうすっかり、女装が板についてるじゃないか。
指名してくれる客もいるし…
このまま本業にしたらどうだ。」
「馬鹿ね。私の色仕掛けは、
こんな所で使うものじゃないの。」
俺が攘夷志士との繋がりのリスクを取ってまで
小太郎のいるキャバクラを選んだのは、
嘔吐しても何をしても、
小太郎が助けてくれると踏んだからだ。
俺の予想は当たり、
ホールや呼び込みのバイトをしながら、
小太郎は色々と俺をフォローしてくれた。