第9章 姉の顔
ーーー・・・
「うぅ・・・ん・・・」
「ミオ、大丈夫?吐きそう?」
「だ・・・いじょうぶ・・・」
まるで死にかけているように、及川の背中で度々呻くミオ。
自販機で水を買い、電車の席に座らせると、キャップを開けて口を開かせる。
その中に水を飲ませる。
目は開いていない。下手したら今、意識はないだろうな・・・
「ありがとう・・・徹くん・・・ミオのこと助けてくれて」
人の乗っていない車両で、未だにぐったりと背もたれに寄りかかるミオを見ながら、リオは言った。
「うん。多分あのままだったら・・・あの男の毒牙にかかってたね」
「ほんと。ミオってば、酔うと隙だらけなんだよねー」
仕方ない、と呆れつつも、どこか優しい眼差しを、妹に向けるリオ。
それは、正真正銘の、妹を見る姉の眼差しだった。
昔からリオはミオの世話を焼いていたんだろうなと思った。
「ミオ・・・凄い気持ち悪そうだけど、吐かないかな?」
一応ビニール袋は渡されたけれど・・・と、いつでも出せるように手に持つ。
「ミオは多分、吐かないで二日酔いで出るタイプ。でも一応、覚悟はしておいて」
「覚悟って大袈裟っ」
ぷっと吹き出す及川とリオ。
いつも2人で帰る電車に、今日はミオが隣にいる。
いつの間にか呻きを止めてすやすやと眠るミオに、及川は羽織っていた薄手の上着をかけた。
すぐ隣で眠る彼女の横顔はリオと瓜二つ。
しかし性格は正反対。
(例えるならリオは高校時代、公式で当たった烏野の爽やか君。ミオは飛雄って感じかな。あいつみたいに人間関係不器用ではないと思うけど・・・)
ミオはチームメイトとは上手くやってるみたいだけれど、
及川に、対してはとても不機嫌そうで、むしろ避けている気がする。
(そんな所まで飛雄じゃなくていいのに・・・)
きっとこんなに酔っ払ってなければ、この顔をこんな近さで見ることは、できないだろう・・・