第5章 春の少女
及川はその名を呼んで、駆け出した。
少女が顔を上げる。
大きな瞳、間違いない、彼女だった。
「・・・え?」
きょとんとした表情の彼女に構うことなく、及川はその体を引き寄せ、その腕に閉じ込めたーーー・・・
「リオ・・・会いたかった・・・!!」
この一ヶ月、会いたくて、会いたくてたまらなかった。
最後に見せた苦しそうな顔が忘れられなくて、
心配ないよと、ずっとこうしたかった・・・・・・
温かな彼女の体・・・
及川はより一層、抱きしめた腕に、力を込めた・・・・・・・・・
「何、すんのよっ!!!」
ドンッと、突き飛ばされた。
軽くよろめき、押し返された胸板がじんじんと痛む。
「へ・・・・・・?」
せっかく会えたのに、とでも言おうと及川は彼女を見たが・・・
「え???」
彼女は、及川が見たこともないような、真っ赤に怒った顔で、こちらを見上げていた。
「何なの!あなた!」
明らかに怒りを露わにしている。
(あれ・・・・・・?)
感動的な再会・・・
の筈だったのに、目の前の彼女はちっとも嬉しそうではなかった。
「え・・・君・・・・・・誰?」
及川の知っている、いつもにこにこ笑っている彼女ではなかった。
「それは、こっちのセリフだし!!!」
何なんですか本当に!と怒りまくる彼女は、本当に他人みたいだった。