《おそ松さん》なごみ探偵・謎の仮面と洋館の幽霊(R18)
第1章 プロローグ
昼休み終了のベルが鳴った。
ブラック工場の工員たちは仕事に戻るため、一斉に食堂を出る。
「今日もあちーな」
「廊下にも冷房入れろってんだよなぁ」
「まぁ、作業場が涼しいだけマシかもな」
噴き出てくる額の汗を作業服の袖で拭い、黒い廊下をダラダラと歩く。
「もっと休み欲しいよなあ」
「それな。盆休みもないらしいぜ」
「マジかぁ。お盆は帰るって、家に電話しちゃったよ」
思い思いに喋りながら、階段を降りる。
工員の一人が振り返った。
「一松さん、さっきはどこに行ってたんすか?」
一番うしろを歩いていた猫背の男が顔を上げ、「別に……」と答えた。
「あ、もしかして彼女さんに電話っすか?」
「俺みたいなのに彼女なんているわけないでしょ……」
あまり喋る気はないようだ。無愛想に返して下を向く。
先頭を歩いていた工員が製造室に入ろうとし、足を止めた。
「どうした?」
他の工員が声をかけたが動かない。
「早く入れよ。どうしたんだよ」
言いながら製造室の入り口に目をやり、息を呑んだ。
他の男たちもつられて覗き込む。
「え? 所長……?」
何が起こったのかすぐには理解できず、皆呆然と目の前の光景を眺めた。
「もしかして……死んでるんじゃないの?」
誰かが言うと、途端に場は騒然となる。
「警察呼んで!」
「先に救急車じゃねえの?」
「おい! 勝手に動かすな!」
「誰かイヤミさんを呼んでこい!」
パニックの中、『一松』と呼ばれた男も製造室を覗いた。
パンツ姿の男性が背中から血を流して倒れている。
倒れていたのは、ブラック工場の所長、デカパン氏だった――。