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【APH】本田菊夢 短~中編集

第14章 (日)鬼ごっこ



出会った時からいつも付きまとってくる男がいた。
綺麗な顔の人だなと思っていた彼は私を見つければさりげなく近寄り、話しかけ、絡んできた。
鬱陶しいほどでもないがあっさりしてもいない絶妙の距離感。上手いな、と思ったけれど特に興味も無く、最低限の言葉を交わすだけの仲。

初めは視線を感じた。
次に話しかけてきた。
更に暫くしてからお茶に誘ってきた。
私は無理をしない程度に付き合った。その結果わかったのは、彼がとても一途で良い人だという事。
だけど私は。
目の前にガラスの扉があるような気持ちで彼を見ていて。


「あの…璃々さん、少々宜しいですか」

「なに?」

ある日、いつもの日常が終わろうとする夕方に、私を呼ぶ彼。
振り返った先にいる菊は、少し頬を赤らめていて、緊張しているようだった。

視線は揺れて薄い唇はきゅっと結ばれている。しかし瞳の色は決意に満ちて、思わず吸い込まれそうになったけれど。
私はやっぱり、ガラスの扉越しにそれを見つめる。

「あの…この後、少しお話したい事がありまして。良ければお時間を頂きたいのですが」

「…?ここでじゃ駄目?」

「……二人きりで、お話したいのです」

周りに聞かれないよう囁くような声で言った彼。
私はそれを聞いた瞬間、全てを察知した。

菊の目は不安そうに揺れている。けれどしっかり私を捕らえていて、私の反応を伺っている。
予想している結果は多分当たっているはずだった。私とお茶したり話したりする時の彼を思い返せばすぐに確信になった。
ついに、と思って。どこかで私の中の誰かが怖がった。

それを押し隠して微笑む。

「わかった。じゃあ、裏の桜の木のとこにいるから」

「…っ、ありがとうございます」

ではまた後程、と離れていく彼の足取りは軽い。


その背中を見送って、まだ何も話していないのに既に嬉しそうな菊の顔を見て。
困ったなぁ、と私は頭を掻いた。

菊の事、恋愛対象として見る事は出来ないんだ。
だってこんなに分厚い扉があるんだから。

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