第2章 勧誘
医師特別当直室…。
腕利きの医師たちに与えられている仕事部屋である。
いつもならば、外科医の牛島先生のお部屋にお邪魔している私であるが…今日はそのお隣…心臓血管外科医の木兎先生の部屋になぜか立っている。
同じ造りの当直室のはずなのに、牛島先生の部屋とは全くと言っていいほど雰囲気の違う部屋に驚きも感じた。
ソファーには徐にえっちな雑誌たちが積み上げられている。
「興味あります?」
背後にいた放射線技師の赤葦さんが雑誌の山に呆れた顔をしていた私にそう声を掛けてきた。
「ありません…」
澄ました顔でそう答えるも、正面に座る木兎先生はお見通しと言った感じでニヤリと笑っていた。
「まぁどうでもいいけど、本題っ!来週のオペチームに入ってもらいたい」
先日の牛島先生のオペ見学中に軽く声を掛けられていた木兎チームへの勧誘。
確かに手術室ナースとしては興味を引く内容だった。
「断る理由なんて、ほぼ無いんじゃないですか?」
赤葦さんの的確な声掛けに木兎先生も頷きを見せる。
断る理由があるとしたら、牛島先生の彼女である…という至極私的な理由しか思い当たらない…だから、ほぼと赤葦さんも言ったのだろう。
もう一度資料に目を通した私は、木兎先生の机の上にある書類に目を落とす。
チームメンバーは牛島先生に負けず劣らずの好メンバー。
「今回は、参加させていただきます」
私の返答に、当然の如く笑顔をみせた木兎先生。
「よっしゃ!俺のチーム最強!!よろしくな羽音ちゃん」
木兎先生から渡された書類にサインを入れれば契約は成立。特別編成のチームに入れば…手当もつくのだ。色々な手続きが行われる。
色んなものが並んでいるソファーに腰を掛けていると、背後から木兎先生が覗き込んできた。
「字、綺麗だな」
「どうも…」
「オペ後のお相手もお願いできるのかな?」
冗談交じりに囁かれた耳元に木兎先生の吐息がかかる。
答えに困り顔を赤くした私を見て木兎先生は盛大に笑った。
「牛島君に殺されるわ」
「木兎先生、慎んでください」
私の背後でそんな会話が交わされる。
冗談もほどほどにしてほしい…が、これに関しては稀に木兎先生に助けてもらうこともあったので、反論の余地がなかった。