第11章 青山さんとあおぴょんのおかゆ
樹「おい、入るぞ」
控えめなノックと共に樹さんが入ってきた。ぼんやりする頭を何とか起こそうと体を動かそうとする。
樹「おい、熱あるんだから無理するな」
怜「だって…もう熱もだいぶ下がりましたし、まだ片付けなきゃいけない仕事が…」
樹「お前…またそんな事言って俺が仕事行くのを許すと思うか?」
怜「うっ…」
私は痛い所を付かれて何も言えなくなる。およそ1か月程前も私はこのように熱を出し、樹さんに看病して貰った。しかし皆が丁度忙しい時にいつまでも休んでいる訳には行かず、熱も一旦下がったので仕事をしに行った。
その結果週末にはその熱がぶり返し、デートを中止して樹さんが再び看病する羽目になってしまった。
怜「あの時は…大変ご迷惑をおかけしました…」
樹「全くだ…頼れと言っても俺に頼らなかったしな」
怜「それは樹さんが変な罰ゲームつけるから!」
樹「変だと?ご褒美の間違いじゃないか?」
樹さんは持ってきたタオルを絞りながら楽しそうに目を細める。その時の罰ゲームは"私からキスをすること"。嫌では決してないのだが、その恥ずかしさと言ったら今でも顔が赤くなるほどだ。
樹「それにしても、俺がいつもご飯作ってんだから栄養バランスの偏りはないはずだ、だとしたらこの風邪はどこから貰ってくるんだ?」
怜「うっ…」
病人にも樹さんは容赦ないくらい鬼である。一緒に暮らすようになってから、むしろ樹さんの小言は増えた気がする。
樹「まあいい、とにかく今日は休め、いいな」
怜「…了解しました」
ここで意地を張っても仕方が無いので、樹さんに言われた通り休むことにした。
樹「全く…いつからそんなに仕事バカになったんだ」
怜「樹さんには言われたくないですよ」
そんなことを言う樹さんの口調は柔らかかった。今は休む暇もないほどに忙しいのに、こうやって樹さんは私の心配をしてくれる。
怜(なんだかんだ言うけれど、やっぱり優しいんだよなぁ)
私は嬉しさについ頬がゆるんでしまう。