第2章 【伊達軍】上弦の月【伊達政宗】
瀬那は少し困ったような表情で、瞳は哀しい色をしていた。けれども、頬は先程よりも赤みを帯びて耳まで朱に染まっていた。
そして、少し伏せ目がちに、
『私、自分の血に姫神子様と同じ力があるなんて、未だに全然信じられないんです。私にとってはやっぱり美味しくない鉄っぽいただの血の味だし…。』
こちらの様子を伺うように、
『……でも、いつだって、政宗さんが必要としたときに、差し出せるくらいの心の準備はできてるつもりです……よ?』
辿々しく、振り絞るように、言葉を紡いだ。
瀬那の潤んだ栗色の瞳は熱っぽい眼差しで俺の瞳を真っ直ぐに見つめていた。
瀬那が、一体何をいわんとしているのかをすぐには理解できなかったが、
血を求めてもいいと
唇を重ねてもいいと
言っているようで…
一呼吸分の間をおいて言葉を反芻して…
「…っ!」
鏡を見ずとも自分の顔が一気に紅潮したのがわかった。
自惚れていいのだろうか…
困惑して、暫し返答に峻巡していると、沈黙に耐えきれなくなったのか瀬那が捲し立てて言った。
『あの、政宗さんを困らせるつもりはなくて、その、えっと、今なにか口走ったかもしれませんけど、さっきといい、今といい、なんか私そそっかしくて、その、何でもないんです…今のは気にせず、どうぞ聞き流してください…。』
照れ隠しのつもりだったのかもしれないが、顔を真っ赤にして涙目で此方を伺う様子が、あまりにも可愛くて、ふっ、と思わず笑ってしまった。
もう自分の中にある瀬那への感情を、自分に対しても、瀬那に対しても、はぐらかしていることが馬鹿馬鹿しいほどに、愛しい。
あぁ。俺の負けだ。
負けといえるほどの勝負など始まっていなかったけれど。何故なら気づけば既に、俺は瀬那に心を奪われていたのだから。
「あぁ。お前は本当に、そそっかしいな…。」
男が口吸いを求めて、女がそれを受け入れる、それの意味するところは、男女の仲になることの了承だ…ということを、瀬那が知っているのか俺は知らないが………問うてみようか。
ただ向かい合ってるだけなのに、動揺した瀬那が体勢を変えようとして、その身体がぐらりと揺らいだ。
「…ぁっ。」
身体が勝手に動いて瀬那へ手を伸ばした。