第11章 ぬくもりの宿
雨が降る中、今さら傘をさすなんて無意味に思えて、ずぶ濡れになりながら私達は歩いた。
ついてきてくれるか心配で、花宮の手を握って引いてみたら案外素直に私の後ろを歩いてくれる。
なんか、かわいい。
もちろん口に出したりはしないけど。
マンションの廊下に水滴を垂らしながら歩いて、我が家の玄関前まで来たのはいいんだけど……。
「うーん……」
こりゃあ、うちの玄関から洗面所までは水浸しコースだなぁ。
後片付けがめんどくさそうだけど、いたしかたない。
「タオル持ってくるから、ちょっとここで待ってて」
軽くTシャツの裾を絞りながら私は言うと、鍵を開けた。
履いていたサンダルを脱いで大股で洗面所までいくと、サッとバスタオルを一枚、普通サイズのタオルを一枚取り出す。
普通サイズは廊下に敷いて、バスタオルは花宮に。
玄関の扉を再び開けると、花宮が寒そうに両腕に手をあてていた。
「これ、バスタオル、だいたい拭けたら入ってきて」
「ああ」
夏だけど、雨が降っているしけっこう冷える。
私も急いで洗面所に戻ると普通サイズのタオルを取り出して肩にかけた。
ひとり暮らしの我が家は、洗面所にバスタオルは一枚しか常備されていない。
後でタンスから出さないと、と考えを巡らせていると、洗面所に干された下着達が目に入った。
さすがに片付ける余裕はないな、と思う反面、このまま堂々と吊るしておくのもどうか、と悩む。
結果、洗面台下の空きスペースにこっそりと移動させたのは乙女心ってやつだ。
わかってほしい。
湯船のお湯を沸かすように機械を操作している頃合で、玄関扉の開く音が聞こえてきた。
「あ、花宮ナイスタイミング! ちょうど今お湯沸かしはじめたから、入る頃にはあったかくなってると思うよ」
「何から何まで悪いな」
「えっ!? 別にいいって、このくらい」
なんだかしおらしい態度にドキマギしつつも、花宮を洗面所に急かす。
「上がったら声かけてね、次私入りたいから」
「は? 一緒に入ればいいじゃん」