第8章 もう帰るんだ……
私がやっとこさお風呂からあがると、花宮はすでに準備万端でソファーに座って待っていた。
初めて会ったときの制服姿に戻っている。
こうやって見ると若いな……。
制服を着ると、とたんに年下感が出てきてつらい。
「あと十五分……いや、三十分待ってもらっていい?」
私が花宮にお伺いをたてると、彼は目だけをふいっと滑らせた。
分かったからさっさとしろ……と、そういう解釈であってると思う。
まったくふてぶてしい高校生だ。
そう思いつつ、彼とのこんなやり取りが今はそんなに嫌じゃない自分がいる。
…………私ってMなのかな?
「忘れものないよね?」
鍵を片手に玄関先にいる彼に投げかける。
まあ花宮のことだ。
忘れものなんてしていないだろう。
確認もそこそこに私たちは家を出た。
私が鍵を掛け、隣の花宮を見上げると、なんだかぼーっと遠くを見ていた。
我が家はマンションの三階なので、多少見晴らしはいいかもしれないけど、だからといってこんな住宅街に何かがあるわけでもない。
花宮の視線を追って一緒に街並みを眺めてみるけど、私にとっては見慣れた景色でしかないな。
「……花宮、鍵掛けおわったよ」
暗にそろそろ行こうと伝えると、花宮は「おう」と小さく呟いて、くるりと背を向け歩きはじめた。