第4章 そういえば自己紹介もまだだった
画面が一瞬暗転した後、向かい合う二人のキャラクターの間をSTARTの文字が踊った。
私達はカチャカチャとキャラクターを動かしはじめる。
あれ?
うまい、けど……なんていうか。
「花宮、手加減してる?」
画面が止まった。
彼がセレクトボタンを押したのだ。
「おい、このコントローラー壊れてるだろ。必殺技だけできないとか、何の嫌がらせだ」
花宮のキャラクター、基本的なダッシュやジャンプの動きは無駄のない動き(悔しいけど私よりうまい)なのに、どういうわけか必殺技を出さない。
格闘ゲームは必殺技を出してなんぼなので、当然私の方が優勢になる。
「それしばらく使ってなかったからなぁ。調子悪いのかも」
「んだよ……」
花宮はため息をつくと、少し真剣な表情で黙り込んだ。
「どうしたの?」
「いや、別に……」
ふせていた瞳を一瞬こちらに向けると、花宮はそのまま立ち上がった。
「ゲームはやめだ。コントローラーが壊れてるんじゃあ、試合にならねぇ」
それもそうか。
私はゲーム本体の電源ボタンを押すと、テレビの画面も消す。
今度こそお風呂に入ろう、と立ち上がって、ふと考える。
花宮って……今日、うちに泊まるんだよね?
考えてみたら、我が家に男の人を入れるのって初めてのことだ。
私、異性と交友がないからなぁ。
「花宮……って、今日うちに泊まるんだよね?」
いちおう、確認のつもりで聞くと、花宮は眉をひそめた。
たぶん、今さらそんなこと聞くなと、そういうことだと思う。
というかこの状況って、もしかしてけっこうやばいのでは?
わ、私……犬になれとか言われちゃったけど!
ひゃあ〜〜〜!!
と、ひとしきり悶えていると、冷めた目線に気がついて、私はぴたりと止まる。
花宮の「ふはっ」とバカにするような笑い声に、私は赤面した。
くそぉ……なんか恥ずかしいことしちゃったじゃん。
「私、お風呂入るから!!」
照れ隠しにそれだけ言うと、私は洗面所へと急いだ。