第15章 【犬系】×【生徒】
「…先生の事が好きです。」
初めて聞いた時は、
何を言っているのだろうかこの子は、と思ったくらいには、混乱した。
確かに、最初の一瞬は“尊敬”の意味での好きだと思ったから、嬉しかった。
けど、彼の真っ赤に染まった頬を見ればその好きでは無い事は確かに分かった。
「ありがとう。」
にこやかに笑ってみせて、素直な感謝だけ伝えて、
その場から離れようとした私の服の袖を、彼はぐいと引っ張った。
「待って、先生…逃げないで。」
まるで子犬のような目で見つめてくるものだから、
逃げる事も出来ず、
「…」
ただ、言葉を詰まらせる。
「お願いだから…返事を聞かせてくれませんか。」
静かな声で言う彼に
「私の、どこが好きなの?」 と、意地悪な質問を返す。
ちゃんと答えられたら…私も返事をちゃんとしてあげようかな、なんて。
とは言っても、断る事に変わりないけど。
「全部…って言いたい所ですけど、それじゃ伝わらないと思うから。」
真剣な眼差しに、息が詰まる。
「優しくて、俺が困った時にすぐに助けてくれて。
昔俺に掛けてくれた言葉、“あなたの笑った顔とても素敵だから”って。
先生は忘れてしまったかもしれないけど、
今も俺は覚えてて…それに、俺は先生の笑った顔が好きなんです。」
1つ1つ話す彼の言葉に、ちゃんと考えてくれているんだ。と嬉しくなる。
でも、それと同時に、そこまで想って居てくれたことに驚く。
「…先生?どう、でしたか?」
不安そうに首を傾げた彼に
「ありがとう。」ともう一度、改めて言ってから、
「気持ちは嬉しいけど…ごめんね。私は先生だから」 と、返事をする。
彼の様子をちらり伺うと、彼は落ち込むどころか、私に言った。
「俺、諦めませんから。いつか、生徒としてじゃなくて、
男として見てもらえるようになって、貴方の彼氏として
隣に立てる様に頑張るから、だから…待っててください。雨衣先生。」
宣言するように言う彼に、
「うん、待ってるよ。」
なんて、返した。