第55章 【元気】×【アイドル】

「…じゃあさ。一緒に住もっか。」
驚いて言葉も出ない。

話だって聞いてくれていたはずなのに。どうしてそうなったのか。

「一緒に住めば不安も無くなるかもしれないから。」

ね？と声がする。


「…でも」

本当は少しだけ、嬉しいと思っている自分がいて。
ほんと、私って自分勝手だなぁ、なんて。

「俺もあるんだ。不安になること。」

いつも元気な空から、そんな言葉が出てくるとは思わなくて。
今日はなんだか空に驚かされてばっかりだ。


「でも俺考えたんだ。そういう悩みって会っちゃえば無くなるかなって。…ダメかな？」

話の展開が早くて、中々追いつけない。
別れ話は一体どこに行ってしまったんだろう。

「迷惑かけちゃう、から。」
嬉しいけれど、一緒に住むことになったら余計に迷惑を掛けてしまうかもしれない。

ネガティブなことばかり考えてしまう私に対して空はポジティブで。

「…大丈夫だよ。絶対、」

どこから来る自信なのか、優しい声で私に言う。

｢そう…かなぁ｣
｢うん。だから安心して。｣

｢…うん。｣

そう言われて少し安心してしまう私は単純だ。



｢空？｣
｢ん？｣

「私も…一緒に住みたい。｣
やっぱり、中々会えないのは寂しいから。

｢ほんと！？｣
｢うん。｣

｢…やった…!!良かった…。
本当は断られるんじゃないかって心配だったんだ。｣

一緒に住めることも嬉しいけれど、
空が嬉しそうに話すから、もっと嬉しくて。

さっきまでの不安はいつの間にか、
どこかへ消えていってしまったみたいだ。

不思議だけど、
きっとそれは空の力なのかもしれない。

すぐに不安を無くしてくれて、安心させてしまう。
きっと、そういう所に私は惹かれたのかもしれない。

｢ね、楽しみだね！｣
｢…うん！｣

本当に、楽しみだ。
電話を掛ける前は、不安でいっぱいだったのに。

今は、そんなこと思わなくなってしまっていた。