第38章 【一目惚れ】×【初恋】
「…!あの!」
さっきまでの迷いはどこかへ吹っ飛び、私は声を掛けていた。
「そのストラップって…!」
私の声に、その人は驚いた表情で本から顔を上げる。
そして私を見ると、ふわりと微笑んで言葉を返した。
「―やっぱり、君がそうだったんだ。」
嬉しそうに言うけれど、私には何のことを言っているのか分からなかった。
首を傾げる私を、ベンチの隣をトントンと叩いてその人は呼んだ。
「隣、座って。」
「…お邪魔します。」
小さく呟いて、隣に座る。なんだか、少しだけ落ち着かない。
「昨日君を見た時、すぐにあの子を思い出した。」
その人は、嬉しそうに話をしてくれた。
「また会いたくて、それからずっと考えていた。君はあの子に似ているなって。
…もしかしたら、あの子は君なんじゃないかって。少し期待した。だからこのベンチに来たんだ。」
その人も…あの男の子も、私と同じだった。
話を聞いて、私は嬉しくなった。
同じことを思っていた。そしてまた再会が出来た。すごく、嬉しい。頬が緩む。
「…あの、」
ずっと聞きたかった。ずっと考えていた。あの日から、ずっと。
「名前、教えて貰えませんか。私、貴方の事を知りたいんです。どんな人なのか、とか」
彼は一瞬驚いた顔をして、すぐに優しく笑った。
「もちろん。…僕は空、っていうんだ。僕も、君の事を色々知りたい。」
…空さん。―やっと、聞けた。
「…ありがとう…ございます。あ、えっと、私は雨衣です。」
2人改めて名前を名乗って、それがなんだか少しおかしくて、2人で小さく笑う。
それから色々なことを話した。
その時間がすごく楽しくて、家へ帰った後もすぐにまた会いたくなった。
携帯電話を手に取り、新しく登録された文字を見て嬉しくなる。
これからは、またいつか会えるかもしれない。じゃなくて、またいつでも会える。だから。
それがすごく嬉しい。
その時はまだ子供だったし、ほんの少ししか会話をしなかったけれど
きっとあの男の子は、私の初恋だったから。
じ、と携帯を見つけていると、小さく携帯が音を鳴らした。
届いたメッセージは、空さんからだった。
「今日はありがとう。また明日。」
そのメッセージを見て、また嬉しくなる。
明日も、とっても楽しみだ。