第2章 静かの海で
あゝ、とわは。
死にゆく星々の中で優しく輝く。
夜を唯一照らす事の出来る月みたいだ。
夜の中に在って、ただ一つ太陽の恩恵を受け。
闇の中に在って、ただ一つ夜を照らすもの。
「とわは、月みたいだな…」
「え…?月?お月様…?」
「そう、その月だ」
「んー…、何処が?」
「全部」
ようやく完全に涙と決別した俺は、言いながらとわに口づける。
始めは啄ばむように。
それから段々と深く。
「とわ…」
「ん…、ふ…、や、げん…」
息を求め薄く開いたとわの口内を犯せば。
彼女の体から薫る沈丁花と同じく甘い味が俺の口内にも移り。
「とわ、甘いな…」
「あ…、んっ…薬研……これ、以上…は……」
「ん、これだけで今は我慢する…」
最後に白く滑らかな額にちゅっと口づけを落とし。
まだ少し息を荒げるとわを、先ほどとは違いそっと抱きしめた。
「なあ、とわ」
「…ん、なあに?」
「もう一個だけ、俺にしてやれる事があった」
「もう充分だよ?」
「駄目だ。俺にしてやれる事は全部してやる」
「じゃあ何をしてくれるの」
「秘密だ」
その言葉にとわはふっと笑みを深くし。
楽しみにしてる、と俺の首に腕を回し抱きついた。
そう、そうだ。
俺にはあとたった一つ。
たった一つだけ、とわにしてやれる事がある。
君をあの美しく静謐な月へと。
燦然と輝く太陽が、眠らずに愛し続けるあの月へと連れて行ってあげよう。
君がこれからその身を投げ出そうとしている、荒れ狂う運命の嵐の中には。
俺がその業を全て背負って、君の代わりに飛び込んで行くから。
だから君は遥か彼方の月の海で。
太陽の愛を一身に受けながら。
そうしていつまでも微笑んでいて。