第2章 red
「…ちゃん、ちゃーん、ってば」
気づくと目の前には翔くんが。
「…あ、ああ!ごめん、なんだっけ」
翔くんが左の眉だけ下げて
ふふっ、と息を漏らすような
鼻から抜ける笑い方。
「なに?どうしたの」
「…あはは、うん、ちょっと思い出してた」
「何を?」
目の前にいる翔くんをもう一度見る。
やっぱり昔とは違う、
逞しい体つき、大人びた表情、
何でも包み込んでくれそうな雰囲気。
「昔は…私が翔くんの手を握ってたな、って」
「…昔って、ソレいつの話?」
翔くんが困った顔をして左の口角をあげる。
「初めて会った頃、かなあ」
月日が経つのは早いもので
翔くんと出逢って20年以上、
今では『幼なじみ』という関係までも
変わってしまった。
「ずっと、一緒にいるんだね俺ら」
翔くんのその一言に
胸が暖かくなる。
「ほんと、だね」
勝手に1人でしみじみしていると
「ほらちゃん、手、出して!」
と何故か突然急かされた。
「え!あ、うん、はい!」
わけもわからず出した手に
翔くんが自分の手を重ねた。
「ずっと、離さないでね」
あの頃と違うもう泣き虫じゃない
大きな男性の手が私の中にあった。
END.
「…翔くん、もう離してもいい、かな?」
「ダメです、離しません」