第5章 purple
「さんさ、
それ、本気で拒否してる顔?」
そう言うと彼女は
眉を潜めて目を大きくした。
「…してる、してるから
ダメだよ松本くん」
近づく俺を避けるようにして俯く。
「…何が、ダメ?」
わざと眉を下げて
泣きそうな声で言ってみると
案の定、顔を上げた彼女は
俺を見るなり悲しそうな表情をして。
わかってる、
彼女にはグイグイ行くよりも
こうやって同情をかって
一途で可哀想な年下を演じる方が
効果覿面。
そうすれば
どっちつかずな態度をしている
自分のことを責めるだろうから。
こんな声を出していても本当は、
自分の計算通りに動くあなたを見て
心の中では嬉しくてしょうがない。
俺を見つめて
何も言えない彼女に
「…何もしないよ、
ただ今日はさんを
1人にしちゃいけない気がして」
と頑張ったように笑ってみせる。
「…松本、くん…」と
俺の名前を漏らすのは
受け入れたサイン。
「手は繋いで寝てもいい?」
と額同士をつけて聞いてみると
「…うん、」
と下を向いて笑う彼女に
勝手に左の口角が上がっていく。
それは彼女に隠した
悪い顔。
そうやって
上手く年下を演じて
あなたを捕まえて
罪悪感で物にしようとする。
あなたを抱きしめられるなら
どんな感情でも
どんな方法でもかまわない。
ただ隣にいるのが
俺であればそれでいい。
今回の敵は手強くて
なかなか忘れさせることが
出来なくて
だからこそ
次はどの方法で攻略しようか
そんなことを考えて
愉しむ日々。
END.
愛してるよ、
その瞳を俺だけの物に。