第5章 purple
何日か後に迫るライブに向けて
念入りな会場のチェックが入る。
この間までは
さんと会話することが
多かったはずなのに。
「松本くん、今のとこどう?」
「ああ、大丈夫っす、
そのままでお願いします」
この人は仕事のできる人だ。
俺の要望もすぐ受け入れて
改善してくれる。
そのおかげで、今じゃ
定番の言い合いが無くなった。
さんができない
って言っているわけじゃない、
彼女だって凄い人だ。
それに
あの言い合いは
俺が楽しんでたから。
「よかった」
と亮介さんがスペシャルモテ笑顔を
俺に向ける。
男の、俺に。
さんと付き合っている、
この俺に。
「………」
「え、なに?顔、なんかついてる?」
この人の余裕はどこから
くるのだろう。
俺はこんなに、
意識しているのに。
自分の顔を触って
何も探せずにいると
顔をグイッと俺の前に出した。
まるで「とって」と言うように。
「………亮介さん、マジでたらし」
「いやあ、照れるなあ」
「はは、褒めてねえし」
亮介さんはさんが昔
好きだった人。
わかる気がする、
この人を好きになる理由が。
俺に向ける笑顔を見て
そう思った。