第5章 purple
その姿に周りの社員が
「三樹さん!」「おひさしぶりです!」
と席を立って集まる。
隣の由香ちゃんはポカンとしていて
千佳ちゃんに「誰すか、あのイケメン」
と尋ねた。
部長がその人を連れ社内の一番前に行き
「みんな、手を止めてくれ」と一声あげる。
「知っている者も多いと思う。
去年までうちにいた三樹 亮介くんだ。
移動でまた一緒に働けることになった、
またよろしくしてやってくれ。」
と部長の紹介が終わると
社員全員が立ち上がって拍手を贈る。
「じゃあ三樹からも一言頼むよ」
とその人が一歩前にでる。
ネイビーのストライプスーツに白い襟、淡いブルーのシャツ、黒とシルバー、白の混じったストライプのネクタイ、ブラウンの靴。全てがバッチリ計算されたその人らしい着こなし。
「久しぶり、の人もいらっしゃるとは思いますが、始めまして、三樹 亮介と申します。1年前までここでプロジェクトリーダーをしておりました。今回営業部リーダーとして配属されました。また現場にも行く機会が増えるかと思いますが、よろしくお願い致します。」
かっちりした紹介が終わると
拍手と同時に
「三樹さん、かたあーい!」
「プレイボーイは健在ですかあー?」
とちゃちゃが入る。
「うるさいよ、お前ら!俺真面目なんだからね!」
と変わらないあの人。
どんな顔になっているのか
わからなかった。
なんとも言えない気持ちに
ふらつきそうだった。
すると笑っているその人と
視線が合う。
亮介さんの綺麗な目が
すこし開き
嬉しそうな顔をした。
声を出さずに
口元の動きが私の名前を呼ぶ。
忘れていた亮介さんの声。
私を「ちゃん」と呼ぶその声が
一瞬で蘇った。