第1章 blue
「ゴホッ・・・ゴホッ」
「・・・きつそう」
「ん、だいじょうぶ」
涙目の彼はおでこにアイスシートを貼り、
枯れた声で小さく笑う。
「...逆についてた、
これじゃあ仕事になんねえもん」
せっかくのまとまった連休が貰えたのに
こんな時に風邪だなんて。
まあ、智くんの言うとおり、
お休みの日で良かったのかもしれない。
「ずっと頑張ってたから、
緊張が溶けたんだろうね」
「んー...」
目を瞑りおとなしい彼が、口だけを動かした。
「ちゃん、もう帰って。
移るといけないから」
こんな時くらい頼って欲しいのに
珍しく弱々しい彼に
私の隠れた母性本能が胸を締め付ける。
「ほんとに帰っていいの?」
「うん」
「寂しくない?」
「うん」
「独りでご飯食べるの?」
「うん」
「ほんとは一緒に、居て欲しい?」
「...うん」
布団にくるまり、
私に背を向けた彼の顔が見えなくなると、
短い髪のおかげで見える耳の後ろが
まるで薔薇のように赤くなる。
「智くん」と呼びかけても
こちらを向いてくれるそぶりはなく
「素で甘えるのって難しい」
それだけ言った素直な薔薇色の彼。
END.
「私に移しますか?」
「意味わかって言ってるなら遠慮しないけど」