第3章 gleen
もらった合鍵で連絡もせずに
彼のいない部屋で手料理なんかしちゃって。
しばらく待ってみたけれど
帰ってくる気配もなく、
諦めて荷物をまとめて玄関へ向かうと
ガチャと扉が開いて視線が合った。
驚いた顔した彼が
「び、っくりしたあー…」と一言。
「もう、帰んの?」
「うん」
「そっかあ」
靴を脱ぐ彼が、ん?と
玄関の奥の、リビングに繋がる扉を見る。
「もしかして、なんか作ってくれた?」
と明るくなる表情。
いい匂い!そう言って
鼻を犬のようにクンクンさせる彼が
今日さあ、と何気ない会話を始めながら
私の首に巻いたマフラーを
くるくると、自然に取り始めて
話を止めることなく
リビングにそのままマフラーを持って行く。
喋り続ける彼の声が段々遠くなって
話を途中で止めるわけにはいかず
慌てて後ろを着いていくと
さっき電気とストーブを消したばかりの
まだ暖かい部屋。
「うわっ、うまそ!」
鍋の中身を見て嬉しそうに笑う彼が
冷蔵庫を開けて何も聞かずに
テーブルの上に缶ビールを2本置いた。
「ちゃんは食った?」
「…あ、ううん、まだ」
帰るって言ったのに、
それを覚えていないのか、わざとなのか。
「やった、一緒に食えるね」
ニカッ、と白い歯が覗くのを見て
彼と毎日一緒なら
ご飯の時間も特別になる、そう思った。
2つのお皿に私の作ったビーフシチューを
よそってくれた彼が手を合わせて。
「いただきます」
口に含んだそれを
うっめ、と笑って私を見る。
なんて幸せな、
彼とのなんでもない日常。
END.
「…雅紀くん、一緒に住もう、って」
「ん?何?」
「…あれ、まだ有効かな、」
「…え、え?」
「毎日一緒にご飯を食べたい」
不束な私ですが
これからもよろしくお願いします、
頭を下げると
良かったあ~、と眉を下げる彼。
忘れられてるかと思って、
と不安を漏らした彼の
私を抱き締めるその香りに安心して
ゆっくり腕の中で目をつむった。