第3章 gleen
「まだ帰らないの?」と
誰もいなくなった楽屋で私に問う彼。
「あ、うん、今日は用事があって」
さっきまで楽しそうに笑っていた彼は
「ふうん、」となんだか興味なさげ。
いつもなら「どこ行くの?」て
自然と会話は繋がるのに。
「どうか、した?」
ソファーに深くもたれる彼の
顔を覗き込んで目が合うと
「…んー、いや、なんでも」
と視線を逸らした彼が
珍しく後味の悪い返事。
「相葉くん、どうしたの」と笑うと
真剣な目付きで私を見て
「足りない」と言われた。
「足りない…?」
主語も目的語もない言葉。
理解するにはその情報だけじゃ難しく。
「ちゃんとの時間が足りない、
そんな気がします」
と言う彼の変な敬語が可愛くって
「はは」と笑った。
「笑いごとじゃ、ないんだけど」
頬を膨らませるようなその仕草も
また可愛くて。
「ははは、ごめんごめん」
「なにそれー、全然思ってないじゃん」
「いや、珍しいなって思って」
「…だって久しぶりじゃない?2人きり」
相葉くんが自分の隣を
ポンポンと叩いた。
くっつくようにして座ると
「今日は一緒に帰れると思ったのに」
と私の頭にあごを乗せて腕をまわす。
「ごめんね、言っておけばよかったね」
「…いや、大丈夫」
「終わったら連絡するよ」
「まじ?そしたらダッシュで迎え行く」
あれ、あれれれ
なんだか私、もの凄く愛されてません?
「…ありがと」
「うん、いーんだよー!」と
私の髪の毛をわしゃわしゃと乱す彼が
いつものビッグスマイルを向ける。
これはきっと相葉くんの照れ隠し。
「もう、ぐじゃぐじゃになった」
「あははは、可愛いってば!」
ぎゃははと笑う彼が
私の乱れた髪を直してくれると
急に先程とは違うしい微笑みで
「可愛いってば」ともう一度囁いて
そのまま顔が近づいた。
END.
「…やっぱ、足りないかも」
「え?」
「違うとこにもキスしていーい?」