第3章 gleen
「よく見つけたね、こんな穴場」
「うん、頑張ったよ。ちゃんが
嬉しいこと言ってくれたからね」
たぶん、雅紀くんの言う『嬉しいこと』とは
旅行に行けない代わりに
お弁当持って外に行こうと提案したこと。
たったそれだけのことなのに。
雅紀くんの傍にいると
たったそれだけの事が
たったそれだけの事じゃなくなる。
「うん、2人だけ、だね」と笑うと
雅紀くんが眉を下げて小さく口元をあげる、
切ない顔をした。
「海の向こう側なら、
手繋げるかもしれないのにね」
と遠くに見える地平線を
真っ直ぐ見つめる。
初めて見るその横顔に
胸がギュッと捕まれたような
切なさを感じた。
私が黙って彼を見つめていると
それに気付いて
ごめんごめん、といつものように笑う。
「雅紀くん、」
無理して笑う彼の左手に触れた。
「お弁当、食べよっか」
大丈夫だよ、
皆の前で手が繋げなくても
気軽に旅行に行けなくても
また2人で夏が過ごせるなら
ちゃんとこうやって
触れられるなら
何も要らないよ
その意味を込めて
精一杯の笑顔をあなたへ贈る。
うん、と今度は心から笑ってくれた彼に
もう1度笑って「大好き」を添えた。
END.
「ちゃん、やっぱり俺、
家が一番好きかも」
「へ?あ、そう?」
「うん、だっていつでもキス出来るし」