第2章 red
翔くんが体育座りをして
背中を向けていたのに
勢いよくこちらを振り向く。
「や…ごめん、ね?
悪気は…ない!」
半泣きで顔を赤くする翔君が
面白くって、めずらしくって
つい意地悪してしまう、
なんて、嘘
やきもちだ。
これは完璧なるやきもちだ。
翔くんが綺麗な女優さんに迫るという
ドラマのワンシーンに
私はやきもちを妬いたのだ。
そんなこと言えるわけもなく
恥ずかしそうにする翔くんを
笑って自分をごまかした。
「…そんなにダメだった?」
と翔くんがシュンと私を覗き込む。
なにやってんだ、私。
ほんとは凄くドキドキした。
あの目を細めて
近づく顔に。
少しだけ開く、ふっくらとした唇に。
壁に押し当てられたその腕に。
でもそれは
私じゃなくてその女優さんに向けたもの。
そんなの他の人に見せないで。
なんて無理な話なのに。
「…ううん、ごめん。
おもしろくなんて、ない」
「え?」
「全然笑えない、面白くない。
羨ましかった、女優さんにやきもち妬いた」
素直な気持ちをぶつけると
え?え?と混乱する翔くんに
笑ってしまった。
「…ふふ、ごめん、かっこよかった!」
「……」
翔くんから、さっきの慌てた顔が消える。
無言でジリジリと体を近づけてくる彼に
怒らせたかな、と後ずさりしてしまう。
近づく翔くんに
離れる私。
トン、と肩が壁にぶつかった。
なぜか追い詰められた態勢になる私。
「…あ、いや、翔くん、あの、ね」
私が謝ろうとすると、
ドン、と壁に手をつく彼。
あれ、これ、さっきのドラマ…
そう思ったのも束の間、
彼の顔が近づき、耳元の近くで
私が焼きもちを妬いた
その言葉を囁く。
「好きになってくんない?」
それは私だけが見ることのできる
ドラマの中のワンシーン。
END.
「もうとっくに死ぬほど好きなんですけど」
「え、(…そんな真顔で言う?)」