第1章 泣き虫な子。
帰宅するとナルトが来た。
風呂から上がれば顔を見せずに部屋に行き泥のように眠るのが習慣だった。
どちらさま?と言いながら開ける妻に額を押さえたが、ナルトの訪問にも驚いた。
慣れたように上がって、茶の間では楽しそうな笑い声が廊下まで聞こえた。
疚しい事ではないのだろう。
なんて、思いながら。
お風呂に戻る。
戸を開けたら湯船からホカホカと湯けむりがあがり、衣服も脱がないまま湯船に手を入れる。
少しだけ熱めの湯船は心地よくしゃがみ込みため息をつく。
カビや水垢なんてない、綺麗な浴室。
茶の間から響く妻の笑い声が何処かほっとした。
帰ってきたんだと、思う反面。
鬱陶しく思ってしまう。
風呂から上がればタオルや部屋着が無いことに気がつく。辺りを開けてみるが場所が解らなく額を押さえた。
「〜部屋着ないんだけど」
浴室から叫べばパタパタと足音が聴こえる。
鏡も、洗面台、蛇口もピカピカと輝いていた。
それがどこか居心地が悪く眉間を寄せる。
浴室の前で足音が止まり、二回ノックされる。
すすっと、戸が開くといつも通り俯いた妻が居た。差し出されたタオルや部屋着を受け取ると、か細く声が震えているような気がした。
「失礼しました、申し訳ございません」
「……誰か来てるみたいだね」
「私の友人が…申し訳ございません」
「……そう」
「…失礼しまします。」
失敗をしたように何度も何度も頭を下げ戸を閉めるのを見て思い出す。
白髪を靡かせ、向日葵のような温かく少し幼い笑顔を向けた人だった。
『まぁ!私の旦那様に!?本当ですか?お世話になります、カカシさん。末永く宜しくおねがいします』
いつの日からか彼女は俯くばかり。
それになんの疑問もないが、ただ、どこか、妻という存在が邪魔に思えた。
じゃらりと足首の鎖が音を立て足を上げて見てみる。
無理矢理繋ぐだけの鎖に失笑した。