第1章 泣き虫な子。
「何を仰っているんですか、幸せですよ私」
クスクスと笑う声が乾く。
「血継限界所持者及び上忍で火影の監視下なんて、難しい条件の上、未婚及び恋人がいない成人だなんて、彼以外居ませんでしょう?綱手様の傍では綱手様が、気が休まならないでしょうし」
「あたしの話をしているんじゃない。アタシはお前を飼い犬にしたい訳じゃない。」
かちゃりと食器を拭いて、戸棚にしまうを繰り返していた。
「いいんですよ、それで人並みに生活が出来るのであれば。等価交換ですよ」
「どこが等価だ、カカシとうまくやってないのだろ」
久しぶりに聞いた名前にビクリとする。
「いえ、最近はちゃんと出来ていますよ。前でしたら、上手く行ってませんでしたが、今は上手くやってます。」
「休みに家にいない、お前は知らないのにか」
「えぇ、自分なりに考えましたからね。皮肉なことに時間ばかりは人様よりありましたから」
深い溜息が聞こえた。
「お前には幸せになる権利がある」
「……私は望んではいけませんから」
「誰がなんと言おうが、凛として笑顔を絶やすな」
「いえ、人様の不快にならないよう身をひそめて、生きていきますよ。死ぬまできっと…」
「!」
上手く行ってます。
旦那様の邪魔、不快にならないよう細心の注意をしているから。
無駄なことをしゃべらない。
聞かない、言わない、望まない。
この家のたった一人の使用人。
旦那様のただ一つ人生の重荷だから。
「それを望んでいるのもまた、私です。ですから、案外上手く行ってますから心配なさらなくとも、もう自由になりたいと渇望し逃げたりしませんよ」
「…………お前は、忘れたのかあの言葉を」
『私は、私だって!人殺しじゃなくて人間になりたい!!!普通の女の子になりたいんです!』
照れくさくなり、額を押さえた。
「昔の事です」
「お前のことだ」
「現実と理想は違います。叶える力が私には備わっていなかっただけの話です」
振り返ると怒りを顕にする綱手様。
それが嬉しくて笑みをこぼす。