第10章 【甘】ヒーロー失格/切島鋭児郎
「切島くん!あそこ!」
瓦礫が積み重なった絶妙なスペースに置かれたダミー。瓦礫を退かしてしまえば、ダミーが下敷きになってしまう可能性がある。瀬呂くんや八百万さん、峰田くんのような個性であれば安全を確保した上で救助に行けるが、こんな場面で無い物ねだりをしたってしょうがない。となれば、私と切島くんペアで救助するならば方法は一つ。
「もし上のが落ちてきたら危ねえから俺が行く。」
切島くんも同じ考えだったようだ。万が一上の瓦礫が落ちてきたとしても、切島くんの個性であれば、瓦礫の下敷きになる事は無い。慎重にダミーの元へ近付き、何事も無くダミーを抱き抱える事に成功した。それにホッとして、少しだけ気が緩んだ。
「切島くん、早く出よう!」
その私の声に続いて、コンクリートにヒビが入るような音がした。そうだ。さっき爆豪くんと轟くんがこの上の階で個性を使っていた。多分、この授業が始まる前よりも倒壊が進んでる。
「逢崎!」
切島くんが私の名前を叫んだと同時に、頭上から瓦礫が降ってきた。だめ…!避けられない…!そう思った私はこれから自身を襲うであろう痛みを想定し、ぎゅっと目を瞑った。