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【WJ】短編 -2-

第9章 【甘】及川徹の策略/岩泉一


 履きなれない下駄をカラカラと音をたて、普段歩き慣れた道をいつもより足早なペースで歩く。が、いつもより早く歩いてるつもりなのに、履きなれない下駄と着慣れない浴衣のせいで、歩くペースはいつもより遅い。それに加え、この噎せ返るような熱さの中、涼しさとは遠くかけ離れた浴衣。首筋に伝う汗に不快感を覚えながら、神社の境内へと続く坂道をひたすら歩いた。
 今日は年に一度の夏祭り。岩泉と一緒に夏祭りに行く約束をしていたが、浴衣を着るつもりは無かった。暑いし、動きにくいし、利便性に欠けてる。数ヶ月に一度のデートの時だって、お互いにお洒落云々より、動きやすさ重視。デートだって、映画だとか遊園地だとかそういった類の場所に行った事は無い。ボーリングだったり、バッティングセンターだったり、体を動かすのがメインの場所ばかり。いつだったか、それを知った及川に二人って本当に付き合ってるの?なんて言われた事もある。体を動かすのは好きだし、岩泉と一緒なら、デートの場所なんか何処でも良かった。その時は岩泉と一緒に及川には関係無いと言ったけど、その後岩泉はそれを気にしてか、二人きりの時は手を繋いでくれたり、たまに名前で呼んでくれたりするようになった。及川に言われた言葉は勿論ムカついたけど、あの及川の言葉があったからこそ、私と岩泉の関係が一歩前進したワケだ。腹立たしいが、及川の言葉には岩泉に対してとても影響力がある。一見、岩泉が及川の手綱を握っているようだが、実際は逆。良くも悪くも素直な岩泉は及川に言葉巧みに誘導されてる気がする。というか、岩泉に限らず、私もその一人かもしれない。というのも、浴衣を着ようと思ったのも、及川の一言がキッカケだ。


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