第1章 【甘】第二ボタン/松川一静・矢巾秀
去年までは楽しかった筈の三月一日が、こんなにも悲しい日になるなんて、無論、先輩達の卒業が頭に無かった訳じゃ無いし、来年の松川さんと矢巾の誕生日は三年生の卒業式だって事は、ここに入学した時から分かってた筈なのに、涙が止まらなかった。
「ごめんね、矢巾。矢巾も誕生日なの自分のケーキ取りに行く羽目になって。」
「いいよ別に。」
涙を拭い乍矢巾にそう声を掛けた。先輩達の卒業式が終わったら体育館で松川さんと矢巾の誕生日パーティーをする事になっていた。予約したケーキを取りに行くのはマネージャーである私の仕事だったんだけど、卒業式で号泣してケーキ所じゃ無かった私を心配してくれた渡が本日のもう一人の主役である筈の矢巾とケーキを取りに行く事になった。落としたら洒落になんねーし、なんて言って結局ケーキも矢巾が持ってくれてる。心配してくれるならそこは矢巾じゃなくて渡が一緒に来てくれたら良かったのに、なんて今になって思うが、何故か渡から指名されたのは矢巾だったし、矢巾もそれに文句も言わずついてきてくれた。
「先輩達、本当に卒業しちゃうんだね。」
「そうだな。」
先輩達の引退の日も、大泣きしたけど、同じ学校に通ってる以上、引退後も校内で会えたし、受験勉強の合間に部活に顔を出したりしてくれてた。けど、卒業してしまったら、これから会う機会が無くなってしまう訳だから、それが悲しくて堪らなかった。及川さんを除く三年生は宮城に残るから全く会えなくなる訳じゃ無いけど、それでもやっぱり悲しかった。
「いい加減泣きやめよ。そんなんじゃ松川さん心配すんだろ。」
折角の誕生日、私がこんなんじゃ、松川さんも誕生日を楽しめない。それに卒業式っていうのは新しい門出を祝う為の行事でもある。誕生日である松川さんは勿論だけど、他の先輩達のこれからの新しいスタートを祝いたい。