第36章 この日を無くしてしまいたい【 hq 花巻貴大】
私を見つけた彼は、袋を抱えたまま「あぁ…」とばつの悪そうな声をもらした。
今日は2月14日。
となれば、袋の中に入っているのは…
言わずもがな、可愛らしいラッピングが施されたチョコレートの数々。
本命から義理まで…
渡されるのは仕方ない。
受け取らない訳にもいかない。
でも、私は、やっぱり…
面白くない…。
「断れなかったんだよ」
と、彼は呟く。
「うん。わかってる…」
「だったら、そんな顔すんなよ」
少し面倒くさそうに、それでも優しく、私の頭を撫でた。
「うん…」
「とりあえず、終わるまでこれ持ってて」
彼の腕に抱えられていた物が手渡される。
「たくさんもらったね」
私がそう言えば、
「アイツよりは少ない」
そう言って貴大くんが指差す先に見えたのは、前が見えていないのではないか?と疑う程のチョコレートの袋を抱えた及川くんの姿。
流石だなぁ…と思う。
でも、
彼が及川くんより少ないと言う手渡されたそれは、クラスの男子に比べれば断然多い。
ふと、袋の中の一つが目に入った。
(シュークリーム…)
中身が透けて見えるハートの袋に入ったそれは、明らかに手作り。
貴大くんの好物。
きっと、本命なのだろう…。
彼は青葉城西のバレー部だった。
だから…
仕方ない。仕方ない。
こうなる事は付き合う前から分かっていた事。
そう思うのに独占欲はとどまることを知らない。
彼は、私のなのに…。
「だから、そんな顔するなって…」
また、彼が私の頭を撫でた。
「うん…」
「結依」
俯いた私を貴大くんが呼ぶ。
「俺は、お前のだけあればいい。お前がくれるのだけでいい」
クイと上を向かされて、彼の手のひらが私の頬を包む。
「嫌なら捨てろ。俺は別にいい」
それだけ言って、彼はクルリと背を向けた。
「んじゃ、ちょっと部活に顔だしてくるわ」
気分が晴れた訳では無いけれど…
背を向けたまま片手を上げる彼に、
「行ってらっしゃい」と手を振り返す。
これ以上、チョコが増えませんように…
そんな願いを込めて。
早く、戻って来て欲しいなぁ…。