第35章 頼まれたって、一人にはしない【刀剣 陸奥守吉行】
「ごめんね。陸奥、ごめんね」
「なんちゃぁない。なんちゃぁない。おまんの大事な刀はわしが守ったき、そげな顔はやめ…」
私の顔に手を伸ばそうとして、
「うっ」と陸奥が傷口を抑える。
「陸奥、陸奥…」
すがりつくように身体を折り曲げれば、
彼が着ていた戦装束が目に入った。
布団の横にまとめられた彼のお日様色の着物は、ボロボロに破れ、血が染まり汚れている。
綺麗な茜色が、紅黒く、紅黒く…。
彼がどれだけ頑張ってくれたのかを、
私がどれ程、彼に無茶をさせたのかを思い知る。
「陸奥だって、私の大事な刀だよ…」
自分が情けなくて、膝の上でぎゅっと拳を握った。
「わしはええんじゃ」
天井を見ながら陸奥が呟く。
「第一部隊の皆には兄弟がおる。山伏も、浦島と長曽祢も、愛染にも薬研にも…。あいつらは、ちゃぁんと兄弟の元へ帰らにゃいかん。傷は少ない方がええ。兄弟が悲しむ。わしは一人やき…」
そう言うと陸奥は、すっと目を閉じた。
明るい彼からは想像がつかない、寂しそうな顔。
その顔を見ていられなくて、彼の頬に手を伸ばす。
「陸奥が怪我したら、私が悲しいよ。陸奥は私の一振り目。初めから居てくれた、私を支えてくれた私の家族。一人だなんて言わないで…。私は絶対に陸奥を一人にしないから…」
そっと頬に触れると、彼は閉じた目を開いて笑った。
「ほうか…」
いつもの無邪気な笑顔とは違う、優しい優しい穏やかな笑顔。
「主。ちっくと、のうが悪いき休ませとうせ…」
「うん…。ゆっくり休んで」
「ほいで…」
今度は彼が私の頬に手を伸ばす。
「笑ってくれとうせ。わしはおまんの笑顔が好きやき」
私の目元を拭う陸奥の手の平。
それに頬を刷り寄せて、コクコクと頷いた。
「待ってるね。陸奥の目が覚めるの待ってるからね」
そう言うと、彼は先ほどと同じく穏やかに笑って、安心したようにゆっくり目を閉じた。