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いとし、いとし【短編集】

第32章 apple!apple!【krk 大坪泰介】


色や味と同じ様に、香りにだって好みがある。

昨日は私の誕生日。

『プレゼント』と、彼氏がくれた可愛い小瓶に入った香水はやけに甘ったるい香りがした。

私の好みには会わなかった。

でも…
せっかくもらった手前、つけないわけにもいかず、今日、私はこの香水をつけて登校する。

満員電車。

ぎゅうぎゅうと人に押し潰されそうになる私を庇うように腕の中に収める彼。

スンスンと首元に鼻を寄せて、「つけてくれたんだ」と微笑んだ。

「俺、この匂い好きなんだよね」と。


『私はあまり好きではない』とは言えず、曖昧に微笑み返す。


皆が羨む様なカッコイイ彼氏。
2つ年上の大学生。
優しくて、身のこなしもスマートで…。

昨日、連れて行かれたのも女の子の憧れを詰め込んだ様なデートコースだった。

私の彼は完璧なのだ。

そんな彼に釣り合うべく、私も身だしなみに気を使った。

可愛い持ち物。可愛い髪型。
私服もラフなものから女の子らしい可愛いものへ。

でも、少し疲れてしまった。
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